7匹のネコの物語/ 哲学者をやめたマリオ

 マリオが来たころ住んでいた家は、玄関から奥までまっすぐ見渡せるような構造だった。奥のサンルームには大きなテーブルがあり、その真下に切り株の形をしたクッション性のネコ用のお家を置いていた。マリオのお家の入り口は玄関の方を向いていたので、マリオはそこから家全体を見守るかのようだった。マリオのお気に入りの場所のナンバーワンだった。
 私が帰ると、マリオは切り株のお家からダッダッと走ってくる。決して速くはない。そして抱っこをして、ひとしきり甘えると、御飯の時間となる。

 たまに、帰りが遅くなると、マリオは「ウニャ、ウニャニャニャン、ウニャン」とずっと文句を言いながら抱っこして、なかなか降りない。今思えば、ちゃんと文句を言って、態度でも寂しかったと訴えていたのだから、たいしたものだと思う。確かな信頼関係が構築されていたということだろう。5~6分文句を言うと、気がすむのか、御飯のおねだりを始める。マリオは、心の表出と納め方が実に上手な子だったと思う。

 そんなマリオが一度だけ、サンルームのテーブルから玄関横の部屋まで、脱兎のごとくピュッと逃げていったことがあった。夕食の時に、椅子の上に座っていたマリオの手が少しずつ伸びてきて、ついにお味噌汁のお椀の縁に手をかけたのだ。たちまちお椀がひっくり返り、味噌汁がテーブルの上に流れ出る。私と夫が「あ~っ!!」と大声を出した途端、マリオが全速力で走り去ったのである。悪いことをしたという感覚があったのだろうか、ただビックリしただけだったのだろうか。たぶん、どちらもあったのだろう。私たちは、マリオがあんなに素早く逃げたことにビックリした。いつもゆったりとしていて、毎朝哲学者のように夢想しているマリオの姿からは想像もつかなかった。

 そんなある日、ムサシという男の子を預かることになった。ムサシとは1年以上一緒に暮らした。哲学者だったマリオはただのお兄ちゃんネコになった。ムサシが少し大きくなると、プロレスごっこが始まった。夜には、大運動会もするようになった。お休みだったある日、マリオとムサシは、昼にも運動会を始めた。そのとたん「ガッシャン!」と玄関で大きな音がした。私の大好きなイヴサンローランの白い花瓶が玄関のたたきに落とされ、見事に粉々になっていた。この時も、2匹はすさまじい速さでピュッと玄関横の部屋に逃げ込んでいた。

 マリオは、寂しさを伝えたり文句を言ったりはできるが、悪いことをした時の謝罪の仕方は知らなかったらしい。「やらかした!」と思っていることは伝わってくるので、そんなマリオの行動も十分可愛いのだけれど。マリオが謝罪をするようになったら、それはそれでビックリしてしまうだろう。謝罪ができないマリオでいいと思っていた。

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